殺人ライセンス (実業之日本社文庫)




 あらすじ

 高校生の久(キュウ)はインターネット上で「殺人ライセンス」というゲームを発見する。それはターゲットを殺害するというゲームだった。しばらくしてキュウはある殺人事件のニュースを耳にする。その被害者は以前みた「殺人ライセンス」のターゲットに酷似していた。キュウは同級生の父で探偵を目指す相沢と事件とゲームの関連性の解明に乗り出す。一方、事件の捜査本部は犯人を絞れず、捜査は暗礁に乗り上げかけていた。捜査本部には相沢の同級生・丸谷も参加していた。





 現代社会(とはいえ10年ぐらいは前)の構図が反映された作品。ネット上に存在する仮想現実、匿名でやり取りされる会話や発言。匿名であるがゆえにたびたびみられる無責任でもあり、攻撃的でもある発言の危うさ。キュウも殺人事件と「殺人ライセンス」との関連性と"ある出来事"を掲示板に書き込むが、それはネット上で思わぬ方向へ話が展開し、キュウ自身も翻弄されていく。

 一方で、実社会での人間関係は家族といえ、希薄になりつつあった。家族間でも会話は少なくなり、若者は他者に無関心。相沢の家庭、キュウ、三田永吉などにそうしたところがみてとれる。

 さらにネット社会に慣れ親しむ若者と不慣れな大人(中年?)の対比の構図も色濃くみられる。

 こうしたネットと実社会の"二つの世界"で構築される人間関係を主軸に、ネット上に現れる神出鬼没のゲーム「殺人ライセンス」、現実に起きる殺人事件の関連性、ゲームは誰が何のために作り、どうして突然現れ、突然消えるのか。そして事件の真相といった謎に迫る。


 作品全体は非常にいい。巧妙な仕掛けやトリックがあるわけではなく、頭の切れる探偵役がいるわけでもなく、普通な人々が普通に疑問や謎に立ち向かう。だから噂や誤情報に惑わされ、誤った方向に流されたりもする。高校生らしい恋の悩みがあったり、人生の岐路に立たされ思い悩む大人がいたり。。。そうした人間ドラマであったりもする。


 事件解決への糸口となるきっかけもなるほどそこから攻めるのかと感じた。意外と単純なきっかけだが言われてみれば確かにその通りだと思った。



 ただ結末として正直少し無理があるのでは?と感じてしまった。こういう作品で意外な結末というのは少ない。落ち着く先は大体決まっている。ネットの中の仮想現実を絡め、謎を深めているが、事件自体は現実でそこにいる人間が行っている。仮想現実で行われたことが現実に起きたとしても、それは不思議でも何でもなく、その通りの事を現実の世界で誰かがやったと言う事。その大前提をもってすれば結末を予測する事は難しくはない。


 今回はそこに一つひねりを加えた形になっているが、それでも推測される想定内の範囲である。ただこれまでの捜査過程における情報からすると、"そいつ"がそれをするには少し無理があるように感じてしまう。それを可能にしたのが「殺人ライセンス」というゲームだったのかもしれないが、そのゲームも謎を解いてみれば。。。だったから、もやもやとした。


 しかしこの結末こそが現在の社会を一番強く反映させているかもしれないとしたら。。。"そいつ"みたいな人物でもその気になれば人を殺してしまう。確かにそんな事件がないわけじゃない。そう考えるとありえないことでもないかもしれない。

 
 。。。全く嫌な世の中になったもんだ。




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