フリークス (角川文庫)



 あらすじ

 自分は一体何者なのか。ある総合病院の精神科病棟を舞台にそれぞれの人物たちが亡くした自分の記憶、自分の正体を探し求める。心の闇に隠れた真実は一体何なのか。三者三様の物語。







 三話に別れて別々の話になっているが、短編集とは違い、同じ世界観の中で一話完結の物語が三つあり、それで一つの作品として成立している。


 一話目は母の見舞いに来た息子が、かつて自らが書いたであろう日記を発見し、そこから過去の自分、自分が何者であるかを探る物語。彼は日記を書いたことはおろか子供の頃の記憶が残っていなかった。


 二話目は事故にあい記憶を失った患者が、記憶を思い起こそうとする様子が日記に綴られていく。


 三話目では作家せある「私」が登場し前二話はこの「私」が旧知の医者から聞いた話を作品として書いたものであり、さらに今手元には別の患者が書いた小説がある。しかしそれはまだ途中で解決編が書かれていない。そこで「私」は探偵の「友人」に解決編がどんなものか相談する。






 このように三作とも失われた(足りない)真実を追う展開になる、がしかし実はその真実を追うほどに闇の奥深くに引きずり込まれる感覚に陥る。それには理由がある。


 三作品ともそのほとんどが1人の視点、当事者である人物の視点で描かれていることにある。あくまで彼らの主観的な思考によってつくり上げられた世界。そこのどこに真実があるというのか。非常に不安定な世界観の中に立たされている状況である。


 そして三話目にさらなる闇に誘い込まれる。友人が発した一つの疑問。ある患者が書いたといわれる一つの小説、解決編のないその作品の謎解きを相談された彼が注目したのはもっと別のものだった。それはこの作品の世界観を覆しかねない疑問である。


 一体なにが真実なのかもうわからない。そんな薄気味悪さを感じる。じんわりくる恐怖、そんな感じの作品である。


この作品はKindleで読めます。

フリークス (角川文庫)